天之作曲集≪季節≫ 完成に添えて①

 私、天之がバンドとは関係なく作っていた曲たちが、一先ず≪季節≫というテーマに関して区切りがつきました。全12曲でそれぞれ1年間の各月を表す曲となっています。ご鑑賞あれ。

 さて、曲集の完成に添えて、どのような意図で制作していたのかを書こうと思います。


制作の意図

 最初に季節の曲を作ろうと思ったのは高校2年生のとき、作曲を始めた頃で、コロナのせいで学校は長い間休みでした。偶々TouTubeで昼寝用の音楽を探していたとき、久石譲のsummerを発見し季節をコンセプトにした音楽を作ろうと思い立ったのです。この曲の存在自体はもともと知っていたのですが、深く聞いたのこのときが初めてで、紛れもなく夏を感じました。


梅雨の夜

 そういう訳で最初に爆速で作った曲が「梅雨の夜」です。コンセプトは、

コロナ禍ゆえの制約や時季特有の低気圧で鬱屈とする心に、それでも夜更けの雨は染み入ってくる。

といった感じです。

 作曲初心者かつ音感貧困者であるせいかメロディとコードの不協が多く、実際に人に聴かせられるものではなかったのをよく覚えています。バンドメンバーの反に幾らかの指摘を貰いながら、Bメロを付け足し、一応の楽曲としての体裁を整え完成としました。曲を聴いた方ならお気付きかと思いますが、最後のAメロのコード進行が大変奇妙です。というか不協和音です。「訂正版と謳いながら間違えたままではないか」というご指摘があると思いますが、大丈夫です。これには深いワケ(言い訳)がございます。制作中にこう考えました。

『梅雨の夜に感じた不安と憂鬱を仄暗い曲調以外でも表現したい。しかしメロディもフレーズもこれ以上は思い浮かばない。そうだ、コード進行で味付けしよう!』

そうして最後の一部で協和を崩壊させて目論見を成し遂げたわけです。

ちなみに嘘です。本当はAm7-5とかG♭dimとかの目新しい和音を使おうとしてミスったけど「魔王」とか「Art Of Life」みたいに逆にカッコよくなるかなと思ったからです。ならんかったがな。


夏~朝風と宵風と星空~

 たしかこの曲が2番目に作った曲だったと思います。YouTube動画のタイトルにあるように、反にアレンジしてもらいました。大変ありがたかったです。曲調が

〈初夏の爽やかな朝〉→〈宵の口の涼感〉→〈夜空の星の煌めき〉

という具合にシフトしています。原版だと雰囲気の盛り上がりと裏のメロディがイマイチだったので反氏に泣き付いて正解でした。余談ですがBメロに久石譲のフレーズを入れてます。これに関しては反は気付かなかったようで、アレンジを頼んだ時『ここ、やけに裏のフレーズ動くなあ、不協和じゃないから問題ないけどな』みたいに言ってたのを覚えています。してやったり。


トウモロコシ農家

 反が大絶賛していた曲です。曲そのものは、8小節のメインフレーズを循環させながら段々と打楽器が煩くなっていくという非常にシンプルなものです。銅鑼が使いたかったためだけに作った曲という噂が流れています。丁度この曲を書いていたときがトウモロコシの収穫時期だったようで、腹が減っていたのか、そのイメージを曲にしました。

中国南部の田畑が広がる農村の風景

を想像したのですが、実際そこではほとんど唐黍なんて作っていません。まあよくあることです、現実と空想の乖離なんて。


黄昏のひととき

 高2の夏休みのある夕方、塾に行く直前の30分くらいで作った曲です。ヒグラシの鳴き声はたしか近所で録音した気がします。曲のイメージは

九月、残暑、夕暮れ時の朱い空

です。フレーズがスローダウンした後の展開が思い浮かばず、仕方なくウェストミンスターの鐘進行で繋いだら上手くいったという有用な経験を得ました。それ以来、曲が行き詰まったら同じようなやり方でパッヘルベルのカノンのコードを流用するというカノン信仰が栄えました。


落ち葉

 後述する理由から、曲集の中では一番まともな曲です。

秋も中頃の紅葉と葉が落ちて寒々とした木、不意に訪れる冬

をそれぞれメロディと曲の〆で表現しています。

 姉に聴かせたとき、『ダンシングラインにありそうな曲』という感想を貰ったのをよく覚えています。耳当たりの抵抗が少なくて、所謂イージーリスニングの部類に入るという内容の誉め言葉だと認識しています。また、高校の授業の休み時間に曲を作っていて、そこに居合わせたベーシストの友人に聴かせたら『神曲』とまで言ってくれたのですが、前述のイージーリスニング性のおかげだと分析しています。


桜はヨルに咲く

 冒頭は「ウェストミンスターの鐘」をイメージしつつ、7thコードや6thコードで味付けしています。このあたりの時期からコードが無駄にテクニカルになっていっています。理由はわからないが。

 若干の卒業ソング臭を漂わせつつ、これを作ったのはまだ高2の冬ということで、自分でも作曲のモチベーションが完全には把握しきれていない謎曲のひとつです。ただコンセプトは明確に決まっていて、

桜は人の少ない夜のうちに懸命に花を咲かせ、人の多い昼は美しい姿を見せている。人間も同じように輝かしい姿は陰の努力の賜物であり、そちらも同様に美しい。

という感じです。実はまさにこの曲に天之のベーシスト論とPhylmerの提唱する人生エネルギー保存則の概念が詰まっています。前者について、大抵のベースパートは音楽をやらない人にとってはほぼ聴き取れないから日の目を浴びない、しかし楽曲としてはベースなしには完成しない。だからベーシストは目立たないからこそ美しい。そして後者、熱力学第一法則の⊿U=Q+Wにあるように無から有は生まれ得ず、何かを得るには元にあるリソースを別のものに変換させなければならない。転じて、努力を正しく変換できた者だけが成功する。という2つの過激思想を見事に抱え込んだ危険な曲です。余談ですが、題が不自然に「ヨル」なのは「ヨル」というバンドの方でやる曲を作っていて、そのアレンジを挿入しようとしたからです。ですがヨルのクオリティに疑問を覚えたため結局やめました。名前を変え忘れたというだけです。ですので「桜は夜に咲く」でも正式な表記とします。さらに余談ですが、旧Obsidian'sで「桜はヨルに咲く」のバンドアレンジソングをやろうとして、曲の方は8割方完成していたのですが、曲の譜面データがぶっ飛んで復元する気力を失って目論見が頓挫しました。以降もやる気はないです。

天之


(天之作曲集≪季節≫ 完成に添えて② に続く)


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